「先生、この事業計画書、融資で使ったやつなんですけど、これ補助金にも使えますよね?」
使えません。
先日、顧問先のA社長から相談を受けたんです。せっかく融資用に作った立派な事業計画書があるから、それをそのまま補助金の申請に使おうと思っていたと。
でも、これが落とし穴なんですよね。
融資と補助金、どちらも「事業計画書」という名前は同じです。 でも、中身は別物です。
本記事の内容
- 融資用と補助金用の事業計画書、何が違うのか
- 銀行が見るポイント、補助金審査員が見るポイント
- 使い回しがNGな理由と、それぞれの攻略法
- 実際に私が見てきた「通る型」と「落ちる型」
- 両方に使える部分、使えない部分の整理術
本記事の信頼性
私、根本太一は地方銀行に約10年勤め、融資審査も営業も経験してきました。選抜4名の一人として本部で審査の裏側を叩き込まれ、本店営業部では上半期新規融資額トップの成績をおさめました。
その後、完全歩合制の生命保険会社に転職し、MDRT4年連続入会。そして今は株式会社インバンカーの代表として、年間数百社の事業計画書作成と融資支援、補助金申請のサポートをしています。
融資側の目線と、申請側の現場、両方を見てきた人間だからこそ、この違いの本質が分かるんです。
目次
なぜ「使い回し」はダメなのか?

まず前提として、融資と補助金は目的がまったく違います。
融資は「貸したお金が返ってくるか?」を見ます。 補助金は「この事業が政策目的に合っているか? 革新的か? 地域や産業に貢献するか?」を見ます。
銀行員はリスクを見る人です。 補助金審査員は可能性を見る人です。
だから、同じ事業を説明するにしても、言葉も、構成も、数字の見せ方も変わるんですよね。
実際にあった失敗例
B子さん(製造業・創業3年目)は、日本政策金融公庫から運転資金500万円を借りるときに、きっちりとした事業計画書を作りました。
売上予測、返済計画、資金繰り表、すべて入っている完璧な書類です。
で、その3ヶ月後、ものづくり補助金の公募があったので「せっかく作ったし、これ使おう」と思ったわけです。
結果は不採択。
理由を見たら、 「革新性が不明確」「技術的な優位性の説明が不足」「地域経済への波及効果が見えない」 と書かれていました。
彼女は言いました。 「でも融資は通ったのに…」
そうなんです。 融資は通るけど、補助金は落ちる計画書というのが存在するんです。
逆もあります。 補助金は通るけど、融資は落ちる計画書も。
融資用の事業計画書とは何か?

融資用の事業計画書は、一言で言えば**「返済シミュレーション」**です。
銀行が知りたいのは、
- この事業は本当に続くのか?
- 毎月ちゃんと返済できる利益が出るのか?
- 万が一のとき、何で回収するのか?
この3つです。
銀行が見るポイント
売上の根拠がリアルか?
「市場が伸びているので、うちも伸びます」
これ、ダメなやつです(笑)。
銀行員は現実主義者なので、**「あなたの会社が、なぜ、どうやって売るのか?」**が知りたいんです。
- 既存顧客が何社あって、
- そのうち◯社が◯%増やしてくれる予定で、
- 新規は月◯件、単価◯万円で積み上げていく
こういう地に足ついた数字が必要です。
利益が出る構造になっているか?
売上だけ書いて利益が見えない計画書、めちゃくちゃ多いんですよね。
銀行が見ているのは営業利益です。 「返済する前に、どれだけ利益が残るか?」
これが月の返済額の1.5倍〜2倍ないと、厳しいと判断されます。
資金繰りが回るか?
損益計算書で黒字でも、キャッシュが回らなければ倒産します。
だから融資用の計画書には、
- 月次の資金繰り表
- 入金サイト・支払いサイトの整理
- 手元資金の推移
これが必須です。
私が銀行員時代、一番見ていたのはこの「資金繰りの動き」でした。 売上が増えても、入金が3ヶ月後なら、その間に死にますから。
補助金用の事業計画書とは何か?

補助金用の事業計画書は、**「政策へのラブレター」**です。
補助金というのは、税金です。 税金を使ってあなたの会社に投資するわけですから、審査員が見ているのは、
- この事業が、国や自治体の政策目的に合っているか?
- 革新的か? 新しいか? 意義があるか?
- 地域や産業にどんな影響を与えるか?
- 実現可能性はあるか?
この4つです。
補助金審査員が見るポイント
政策との整合性
たとえば「ものづくり補助金」なら、
- 生産性向上
- デジタル化
- 革新的なサービス開発
こういうキーワードに沿った内容になっていないと、そもそも土俵に立てません。
だから補助金の事業計画書では、 「うちの事業は、こういう政策目的を実現するものです」 と、冒頭で明確に宣言する必要があります。
融資用にはこんなこと書きません(笑)。
革新性・独自性
「今までにない取り組み」 「他社がやっていない工夫」 「技術的な優位性」
これを具体的に説明しないと、評価されません。
銀行は「新しすぎる=リスク」と見ますが、 補助金は「新しくない=意味がない」と見ます。
真逆なんです。
波及効果
「この事業をやることで、地域にどんな良いことがあるのか?」 「雇用は増えるのか?」 「他の企業や産業にどんな影響を与えるのか?」
こういう社会的な意義を語る必要があります。
融資の計画書では、そんなこと書かないですよね。 銀行員は「地域貢献」より「返済できるか」しか見てませんから。
実現可能性(ただし見方が違う)
補助金でも「実現可能性」は見られます。
でも、融資と違って**「チャレンジングでもいい」**んです。
むしろ、「安全すぎる計画」は「それ補助金いらなくない?」と思われます。
だから補助金用の計画書では、
- 少しストレッチした目標
- 技術的な挑戦
- 新しい市場への挑戦
こういうのを堂々と書いていいんです。
実際の違いを比較してみる

同じ「新商品開発」の計画を、融資用と補助金用でどう書くか、並べてみます。
融資用の書き方
【新商品開発の目的】 既存顧客からの要望を受け、従来品の改良版を開発します。既存顧客10社が導入を確約しており、初年度売上1,200万円を見込んでいます。原価率は60%、販管費を差し引いても営業利益率15%を確保できる見通しです。
- 地に足ついている
- 顧客が見えている
- 利益が見えている
銀行が安心する書き方です。
補助金用の書き方
【新商品開発の革新性と意義】 本事業は、従来の◯◯技術に△△の要素を組み合わせた、業界初の取り組みです。これにより、生産効率が30%向上し、CO2排出量を20%削減できます。地域の中小製造業10社と連携し、技術ノウハウを共有することで、地域産業全体の競争力強化に寄与します。
- 革新性を強調
- 数値で効果を示す
- 社会的意義を語る
審査員が評価する書き方です。
「使い回せる部分」と「使い回せない部分」

じゃあ全部別々に書かないといけないのか?
そんなことはありません。
共通で使える部分と分けて書くべき部分があります。
共通で使える部分
- 会社概要
- 事業の基本的な内容
- 市場環境(ただし切り口を変える)
- 実施スケジュール(ただし見せ方を変える)
分けて書くべき部分
融資用に必要で、補助金には不要なもの
- 詳細な返済計画
- 月次の資金繰り表
- 担保・保証の説明
- 既存借入の状況
補助金用に必要で、融資には不要なもの
- 革新性・独自性の説明
- 政策目的との整合性
- 技術的な優位性の詳細
- 地域・産業への波及効果
- 加点項目(雇用増、賃上げ、地域連携など)
実際にやってみた「両立戦略」

私が顧問先のC社(建設業)で実際にやった方法をお話しします。
C社は、新しい工法を導入して事業を拡大したいと考えていました。 で、融資も必要だし、補助金も取りたい。
そこで私がやったのは、
ステップ1:「共通の土台」を作る
- 会社の強み
- 市場環境
- 新工法の内容
- 実施体制
- スケジュール
これを、どちらにも使える形でまとめました。
ステップ2:「融資用の枝」を作る
土台をベースに、
- 受注見込み(具体的な顧客名と金額)
- 売上・利益の月次推移
- 返済シミュレーション
- 資金繰り表
を追加。
ステップ3:「補助金用の枝」を作る
同じ土台をベースに、
- 工法の革新性(技術的な説明)
- 競合との差別化ポイント
- CO2削減効果
- 地域の建設業への技術移転計画
- 雇用計画
を追加。
結果、融資も通り、補助金も採択されました。
ポイントは、「土台は共通、枝は別々」という構造です。
やってはいけない「使い回し」パターン

逆に、これをやると両方落ちる、というパターンもあります。
NG例1:融資用をそのまま補助金に出す
- 革新性が見えない
- 社会的意義が語られていない
- 「安全すぎる」と思われる
結果:不採択
NG例2:補助金用をそのまま融資に出す
- 返済計画が見えない
- 資金繰りが不明
- 「リスクが高そう」と思われる
結果:融資見送り
NG例3:どっちつかずの中途半端なもの
- 革新性も語れていない
- 返済計画も甘い
- どっちの目線でも「微妙」
結果:両方ダメ
これが一番多いんですよね…。
私が銀行員時代に見た「勘違い」

銀行員時代、こういう事業計画書をよく見ました。
「この事業は社会的意義があり、地域経済に貢献し…」
いや、それはいいんだけど、で、返済できるの?
補助金の審査員じゃないので、地域貢献の話を延々とされても、稟議に書けないんですよね(笑)。
逆に、補助金の審査をしている知人から聞いた話では、
「資金繰り表とか返済計画とか細かく書いてあるんだけど、で、何が新しいの?」
と思うことが多いそうです。
どちらも、相手が求めているものを理解していないんです。
結局、何を書けばいいのか?

まとめると、こうです。
融資用の事業計画書は
- 返済できる根拠を書く
- 売上・利益・資金繰りを具体的に
- リアルで、地に足ついた数字を
- リスクを潰す説明を入れる
補助金用の事業計画書は
- 政策目的との整合性を書く
- 革新性・独自性・社会的意義を
- 技術的な説明も丁寧に
- 「チャレンジしている」ことを堂々と
そして、使い回すなら「土台だけ」。 枝は別々に育てる。
まとめ

- 融資用と補助金用の事業計画書は、目的が違うから中身も違う
- 融資は「返済できるか?」、補助金は「政策に合うか?」を見る
- 使い回しは基本NG。土台を共通にして、枝を分けるのが正解
- 融資用は「安全・リアル・返済可能性」を重視
- 補助金用は「革新性・社会的意義・政策整合性」を重視
- どちらも相手の目線で書く。自分目線で書くと両方落ちる
同じ「事業計画書」という名前でも、読み手が違えば、書くべき内容も変わる。
これを理解しているかどうかで、結果は大きく変わります。
融資も補助金も、どちらも「お金をもらう」ことに変わりはありません。 でも、もらう相手が何を見ているかを理解して、それに応えることが大事なんですよね。
あなたが今、事業計画書を作ろうとしているなら、まず最初に考えてください。
「これは誰に見せるものなのか?」
それだけで、書くべき内容が見えてきます。
今回は以上です。
この記事の執筆者: 根本太一(株式会社インバンカー代表)
元銀行員×社外CFOとして、中小企業の資金調達・財務改善を支援。融資支援・事業計画策定・経営顧問まで幅広く対応しています。
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