「根本さん、銀行に持っていく事業計画書を作ったんですけど、全然反応が良くなくて…」
先日、こんな相談を受けました。
見せてもらった計画書、熱意は伝わってくるんです。でも、数字がバラバラ。売上は「頑張れば3倍」、経費は「だいたいこのくらい」、利益は「なんとか黒字」。
これじゃ、銀行は動けないんですよね。
実は、融資審査を10年やってきた私から見ると、多くの社長が「数字で語る」ことを避けすぎているんです。想いで語る。ビジョンで語る。でも、数字で語れない。
ところが銀行は、想いだけでは1円も貸せません。
本記事の内容
- なぜ「想い」だけでは融資が通らないのか
- 銀行員が審査で本当に見ている数字
- 説得力のある財務計画の3要素
- 実例:通った計画書と落ちた計画書の違い
- 財務計画を自分で作れるようになる手順
本記事の信頼性
地方銀行で約10年、融資・審査・営業管理職を経験。選抜4名の一人として本部で審査ノウハウを叩き込まれ、本店営業部では上半期新規融資額トップの成績をおさめました。
その後、完全歩合制の生命保険会社でMDRT4年連続入会。
現在は株式会社インバンカーで、年間数百社以上の事業計画書作成や融資支援を行っています。財務計画の「通る型」と「落ちる型」を、両側から見てきた人間です。
目次
なぜ「想い」だけでは融資が通らないのか

まず、誤解しないでほしいんですが、想いは大事です。
むしろ、想いがない事業なんて銀行だって支援したくない。
でも、想いだけでは融資は出せないんですよね。
銀行は「返せるかどうか」しか見ていない
銀行の仕事って何だと思いますか?
「企業を応援すること」…じゃないんです。
正確には、**「預金者から預かったお金を安全に運用して、利息をつけて返すこと」**なんですよ。
だから、融資審査の最大の焦点は一つだけ。
「この会社は、借りたお金を返せるのか?」
これに尽きます。
で、その判断材料が「数字」なんです。
あなたが銀行員だったとして、こんな相談を受けたらどうでしょうか。
社長A:
「うちの商品は絶対に売れます! 熱意があります! 3年で売上3倍にします!」
社長B:
「現在の月商が300万円で、新規顧客が毎月平均5社増えています。客単価は6万円。今回の設備投資で生産能力が1.5倍になるので、月商を450万円まで引き上げられます。返済は月20万円で、営業利益が現在50万円あるので、余裕を持って返済できます」
どちらに貸したいですか?
私が審査部にいた頃、毎日のように見てきたのは社長Aタイプの計画書でした。
熱意は伝わる。でも、根拠がない。
「3年で3倍」って、何をどう積み上げたら3倍になるんですか?
それが書いてないんです。
数字は「翻訳装置」
私、銀行を辞めてから気づいたことがあるんですよね。
社長って、自分の事業を「感覚」で理解してるんです。
「今月は調子いい」「あの客は見込みがある」「これは絶対いける」
この感覚、実はめちゃくちゃ大事なんですよ。経営の勘って、数字だけじゃ測れない。
ところが、銀行員にはその感覚が伝わらないんです。
だから、数字という共通言語に翻訳する必要がある。
「調子いい」→「前月比115%」
「見込みがある」→「商談3件、受注確度70%」
「絶対いける」→「テストマーケで回収率150%」
この翻訳ができる社長は、融資が通ります。
銀行員が審査で本当に見ている数字

じゃあ、具体的に何を見てるのか。
審査部にいた時、私が必ずチェックしていた数字をお伝えします。
返済原資(営業利益+減価償却費)
これが全てです。
返済原資 = 営業利益 + 減価償却費
これが年間返済額を上回っていれば、まず返せます。
逆に、これがマイナスだと「返せない」と判断される。
例えば、年間返済額が240万円(月20万円)なら、返済原資が300万円以上ないと厳しい。
「でも、うちは売上が伸びてるから大丈夫です!」
って言う社長、多いんですよ。
でも、売上が伸びても利益が出てなければ返せないんです。
実際、売上3億の会社より、売上5,000万円で営業利益が安定してる会社の方が、融資は通りやすい。
月商の推移と根拠
「来年は売上2倍にします」
これ、よく聞くんですけど、銀行員の頭の中では即座に
「どうやって?」
って疑問が浮かぶんですよね。
- 顧客数を2倍にするのか?
- 客単価を2倍にするのか?
- リピート率を上げるのか?
ここが書いてないと、「希望的観測」として処理されます。
逆に、
「現在の顧客数50社、月間新規5社ペース。今回の投資で対応キャパが+30社になるので、12ヶ月後には顧客数110社。客単価6万円で月商660万円」
って書いてあると、審査が通りやすくなる。
運転資金の計算
意外と見落とされがちなのが、運転資金。
売上が伸びると、運転資金も増えるんです。
在庫を持つ業種なら、仕入れが先に出ていく。サービス業でも、外注費や人件費が先払い。
売上が2倍になったら、運転資金も1.5〜2倍必要になる。
ここを計算してない計画書、まじで多いんですよ。
「借りたお金で設備を買います」
うん、それはわかった。
「で、その後の運転資金は?」
ここが空白だと、融資後に資金ショートする可能性があるので、銀行は慎重になります。
粗利率と固定費
これも絶対見ます。
粗利率(売上総利益率)が業界平均と比べてどうか。
固定費(人件費・家賃・リース料など)が売上の何%を占めているか。
粗利率が30%しかないのに、固定費が売上の40%を食ってたら、どう頑張っても赤字です。
「売上を伸ばせば解決します」
いや、構造的に無理だから。
この構造を変えない限り、いくら売っても利益は出ない。
ここ、冷静に数字で見せられる社長は少ないんですよね。
説得力のある財務計画の3要素

で、実際にどう作ればいいのか。
私がクライアント先に教えている「通る財務計画」の型をお伝えします。
要素1:過去の実績→現状→未来の流れ
まず、時系列で数字がつながっていることが大事。
いきなり未来の数字を出すんじゃなくて、
- 過去2〜3年の実績(できれば月次)
- 現在の状況(直近3ヶ月の推移)
- 今後12〜36ヶ月の計画
この流れで見せる。
過去と現在があるから、未来の数字に説得力が出るんです。
「去年の月商平均は280万円、今年に入って平均320万円、先月は350万円。このペースなら来期は月商400万円でいけます」
これなら、銀行員も「あ、本当だ」ってなる。
逆に、いきなり「来年は月商500万円です!」って出されても、「…なんで?」ってなるんですよね。
要素2:積み上げ式の売上計画
売上計画は、必ず要素分解して積み上げる。
- 客数 × 客単価
- 既存顧客 + 新規顧客
- 商品A + 商品B + 商品C
これを月次で積み上げる。
例:飲食店の場合
| 月 | 客数 | 客単価 | 月商 |
|---|---|---|---|
| 1月 | 800人 | 3,500円 | 280万円 |
| 2月 | 820人 | 3,500円 | 287万円 |
| 3月 | 850人 | 3,600円 | 306万円 |
この表があるだけで、全然違います。
「客数がどう増えるのか」「客単価をどう上げるのか」が見える。
実際、私が支援した飲食店で、この表を見せたら、銀行の支店長が
「これなら通せる」
って即答したことがありました。
要素3:保守的な前提条件
ここ、めちゃくちゃ大事なんですけど、
計画は”保守的”に作る。
希望的観測で作るんじゃなくて、
「最低でもこのくらいはいける」
っていうラインで作る。
売上は控えめに、経費は多めに見積もる。
で、実績がそれを上回ったら、追加で信用が積み上がる。
逆に、楽観的な計画を出して未達になると、次の融資が通りにくくなるんですよね。
私が銀行員時代、ある社長がこう言ってました。
「根本さん、計画は8割で出すんです。で、実績で10割出す。そしたら銀行は喜ぶでしょ?」
まさにその通りなんですよ。
実例:通った計画書と落ちた計画書の違い

具体例を一つ。
どちらも製造業、設備投資1,500万円の融資申請です。
落ちた計画書(社長Cさん)
- 売上計画:「3年で2倍にします」
- 根拠:「新規顧客を開拓します」
- 経費:「だいたい今と同じくらい」
- 返済計画:「利益が出るので大丈夫です」
この計画書、何がダメかわかりますか?
全部、抽象的なんです。
「2倍」の根拠がない。「新規顧客」が何社で、いつ獲得できるのかが見えない。
これだと審査は通りません。
実際、この社長の融資は否決されました。
通った計画書(社長Dさん)
- 現状:月商600万円(既存顧客20社、平均30万円/社)
- 設備投資の効果:生産能力1.5倍、納期短縮で既存顧客の発注増が見込める
- 売上計画:
- 既存顧客:平均35万円/社(+5万円、納期短縮による追加発注)
- 新規顧客:月1社ペース(6ヶ月目から)、平均25万円/社
- 12ヶ月後の月商:既存700万円+新規150万円=850万円
- 経費:人件費+150万円(パート1名追加)、その他は現状維持
- 営業利益:現状50万円 → 12ヶ月後150万円
- 返済:月13万円、営業利益でカバー可能
この計画書、どうでしょう。
数字が全部つながってるんですよね。
「なぜ既存顧客の発注が増えるのか」も、納期短縮という具体的な理由がある。
新規顧客も「月1社」という現実的なペース。
これなら、審査担当者も「返せる」と判断できる。
実際、この社長の融資は満額で通りました。
しかも、12ヶ月後の実績が計画を上回って、次の融資もスムーズに出た。
財務計画を自分で作れるようになる手順

「でも根本さん、私には無理ですよ」
って思いました?
大丈夫です。私もそう思ってた社長を何人も見てきましたから。
でも、型さえ覚えれば、誰でも作れます。
ステップ1:過去の数字を整理する
まず、過去2年分の試算表を用意してください。
できれば月次で。
そこから、
- 月商の推移
- 粗利率の推移
- 営業利益の推移
これをExcelに並べるだけ。
グラフにすると、もっとわかりやすい。
「あ、うちって3月だけ売上が落ちるんだ」とか、
「粗利率が去年より下がってる…」とか、
気づきがあるはずです。
ステップ2:売上を要素分解する
次に、売上を分解します。
- 何を売って、いくら稼いでいるのか
- 顧客は何社いて、平均いくら使っているのか
- リピート率はどのくらいか
これを書き出す。
例:
- 顧客数:30社
- 平均単価:15万円/月
- リピート率:90%
- 月商:30社 × 15万円 × 90% = 405万円
ここまで分解できれば、「じゃあ売上を増やすには何をすればいいか」が見えてきます。
ステップ3:未来の計画を積み上げる
ここからが本番。
「来月、顧客が1社増えたら売上はいくらになるか」
「客単価が1万円上がったら、年間でいくら増えるか」
これを積み上げていく。
最初は1ヶ月ずつでいいんです。
1ヶ月後 → 3ヶ月後 → 6ヶ月後 → 12ヶ月後
この流れで、売上・経費・利益を計算していく。
Excelのテンプレートを作っておくと楽ですよ。
ステップ4:返済計画とセットで見せる
最後に、返済計画。
借入希望額 ÷ 返済期間 = 月々の返済額
これが営業利益の範囲内に収まっているか確認する。
例:
- 借入希望額:1,500万円
- 返済期間:7年(84ヶ月)
- 月々の返済額:約18万円
- 営業利益:月50万円(計画達成後は80万円)
→ 返済可能
この一連の数字が、A4で3〜5枚にまとまっていれば十分です。
数字は「武器」じゃなくて「共通言語」

ここまで読んで、
「うわ、めんどくさそう…」
って思いました?
わかります(笑)。
実は、数字が得意な社長って意外と少ないんですよ。
「売上はわかるけど、利益は税理士任せ」
「資金繰り表? 見たことない」
「決算書は銀行に出すだけ」
こういう社長、山ほど見てきました。
でも、それが普通なんです。
社長は現場を回して、営業して、社員を育てて…って、やることが多すぎる。
数字なんて見てる暇ないですよね。
ところが、銀行に融資を申し込む瞬間だけは、
「数字で語る」ことが求められるんです。
これが、多くの社長を苦しめてる。
でも、ある時私は気づいたんですよ。
数字って、武器じゃなくて翻訳機なんだ、と。
自分の頭の中にある「こうなるはずだ」っていうイメージを、相手に伝えるための道具。
それが数字なんです。
社長の頭の中には、もう答えがあるんですよ。
「このお客さんは絶対リピートする」
「この商品は春に売れる」
「あと半年で新規が安定する」
その感覚、間違ってないんです。
ただ、それを銀行員に伝える言葉がないだけ。
だから、数字に翻訳する。
「リピート率90%」
「3〜5月は前年比120%」
「新規顧客、月5社ペース」
これだけで、銀行員の顔つきが変わります。
数字で語れるようになった社長は、銀行だけじゃなくて、社員にも、取引先にも、説得力が出てくるんですよね。
まとめ

- 銀行が見ているのは「返済原資」と「計画の妥当性」
- 想いは大事だが、数字で翻訳しないと伝わらない
- 財務計画は「過去→現状→未来」の流れで作る
- 売上は要素分解して積み上げる
- 保守的に作って、実績で上回るのが理想
- 数字は「共通言語」であり、慣れれば誰でも使える
財務計画は、難しいものじゃありません。
ただ、やり方を知らないだけ。
型を覚えて、自分の事業に当てはめれば、誰でも作れます。
そして、数字で語れる社長は、銀行だけじゃなくて、あらゆる場面で信頼されるようになる。
もし、「自分一人じゃ難しい」と思ったら、私たちインバンカーがサポートします。
今回は以上です。
この記事の執筆者: 根本太一(株式会社インバンカー代表)
元銀行員×社外CFOとして、中小企業の資金調達・財務改善を支援。融資支援・事業計画策定・経営顧問まで幅広く対応しています。
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